ニシ浜で出逢ったお婆ちゃんと孫娘、二人旅の話。
その日、僕とヒロさんはいつものように
熱くなる前の朝のニシ浜に行き、ベンチに座っていた
しばらくすると、お婆ちゃんと若い女性の二人がベンチの方に歩いてきた
少し挨拶をして、ずっと青い空と海を眺めていた
「天気良いですね、雲もなく」
「そうですねぇ。雨が降らなくて」
「どこから来られたんですか?」
「与論島から来ました。前は別のところに住んでたんですが」
「与論島も夏は訪れる人、多いですか?」
「与論島にも夏になるとたくさん人が来ますけど、夏休みで旅行で来ても何日も雨が続く時がある。本当にかわいそうなんだよ」
ひととおり会話が終わると、またみんな海を眺めていた
「やっぱりこの海だったんだ。あの写真は」
お婆ちゃんは、小さな声で独り言をつぶやいた。
僕が「波照間島に来られたことがあるんですか?」と言うと
「夫と来たことがあるんです。夫は数年前亡くなったんですけど」
と、海で泳ぐ孫娘さんを見ながら笑って言った。
「そうだったんですね」
「海で泳いでいる私を夫が撮ってくれた写真が一枚あるんです」
「あのキレイな海はやっぱり波照間島だったんだわ。思い出した」と、また一息つくようにそう呟いた。
数年前にガンで亡くした夫と来た思い出の場所、波照間島を孫と二人で訪れる旅行。
20代のその孫娘さんが一緒にそのニシ浜に行きたいと言い、二人で旅行に来たそうだ
この日の満潮は、早朝。
その後、昼にかけて潮が引き始める頃、ウミガメが必ず岸からすぐ近くを泳いでいた。
「波照間島にくる途中ずっとウミガメが見たいと言っていたのよ」
「カメがかわいそうだから、もう写真やめてゆっくり海草を食べさせてあげればいいのに」
波の音、蝉の声、遠くの笑い声が聞こえる静かなニシ浜
そして、ウミガメを撮影するために泳いでいた女の子が立ち上がると、
「かなー!かなー!かめー!かめー!」
とお婆さんは名前を呼んで大きく手振った。
僕とヒロさんも笑顔で大きく手を振る
女の子はこちらに気づいて手を振って、両手で丸を作って
うみがめいたよ、と教えてくれたようだった。
この日のニシ浜の空は、雲ひとつない
二人が帰る高速船は空いていた。
乗船すると乗客は、次々と冷房の効いている室内に入っていく
おばあさんと孫娘さんは、室内ではなく、外のベンチに座っていた
「外のベンチにすわってくれてるね。うれしいなぁ」と、ヒロさんが言った。
高速船がゆっくりと動き出し、僕らがいる防波堤の前を加速しながら通り過ぎていく
船の上の二人は僕らに気付くとすぐに笑顔で大きく手をふってくれた。
高速船はどんどん加速する
僕らもまた、いつものように大きく手を振る
見えなくなるまでずっと手を振った
見えなくなるまでずっと。
沖縄で一番キレイなビーチを探すために旅行する自分
もし、この砂浜が一番キレイでなかったとしても必ず僕は自信を持って言える。
この日僕が見た、家族を想う気持ち、亡き夫を想う気持ち、そしてそれを彩るこのニシ浜は
世界でもっとも美しい
おそらく今日もまた、たくさんの旅人たちが様々な想いを抱えて島を訪れる。
波照間島の朝焼け